技術約5分で読めます

Moonshot AIが2.8兆パラメータのKimi K3を発表、重み公開はModified MITで7月27日予定

いけさん目次

Moonshot AIが2026年7月16日、フラッグシップモデル Kimi K3 を発表した。
総パラメータ2.8兆のMoEで、発表文には「史上最大のオープンウェイトモデル」とある。
ただし発表時点で重みはまだ公開されていない。
7月27日までにModified MITライセンス(商用利用可)で公開すると予告されている段階で、いま使えるのはAPIとkimi.com経由のみ。

Kimiのこれまでのリリースはこのブログでも追ってきた。
4月のK2.6は Qwen3.6-Max-Previewとの比較記事 に、6月のK2.7 Codeは 中華系エージェントモデルの記事 に書いた。
K3はこのK2.6、K2.7 Codeに続くリリースだ。

発表内容とスペック

項目Kimi K3
総パラメータ2.8T(MoE、896エキスパート中16アクティブ)
コンテキスト長ネイティブ100万トークン(K2.6の256Kから4倍)
入出力テキスト+画像入力、テキスト出力
ライセンスModified MIT(重みは7月27日までに公開予告)
APIモデルID kimi-k3、入力$3.00/M・出力$15.00/M

MoEの構成は「Stable LatentMoE」と呼ばれていて、896個のエキスパート(専門家サブネットワーク)のうち推論時に16個だけを動かす。
総パラメータ2.8Tに対してアクティブなのはごく一部、という点はK2系と同じ方向性だが、規模が約3倍になった。

アーキテクチャの新要素

目玉はKimi Delta Attention(KDA)。
通常のアテンションと線形アテンション(計算量がコンテキスト長に対して線形で済む近似手法)を組み合わせたハイブリッド構成で、100万トークンの文脈では最大6.3倍高速なデコードを実現したとしている。
100万トークンをネイティブで謳えるのはこの仕組みが前提にある。

もうひとつがAttention Residuals(AttnRes)。
これは3月にMoonshotがarXivに出した、Transformerの残差接続を深さ方向のアテンションに置き換える手法で、以前解説記事を書いた
論文発表から4か月でフラッグシップに採用された。
K3では追加コスト2%未満で学習効率を約25%改善したと主張している。

ほかにGated MLA、Sigmoid Tanh Unit(SiTU)、ルーター最適化のQuantile Balancing、Per-Head Muonが採用されている。
学習はMXFP4ウェイト/MXFP8活性化の量子化対応で行われ、スケーリング効率はK2比で約2.5倍とされる。
学習トークン数などの詳細は技術レポート待ちで、レポートは重み公開時に出る予定。

ベンチマークと立ち位置

公式発表とメディア掲載の比較表から抜粋する(出典: MarkTechPost)。

ベンチマークK3Claude Fable 5GPT-5.6 SolOpus 4.8GLM-5.2
DeepSWE67.570.073.059.046.2
Program Bench77.876.877.671.963.7
Terminal-Bench 2.188.384.688.884.682.7
FrontierSWE81.286.671.366.767.3
SWE Marathon42.035.039.040.013.0
BrowseComp91.288.090.484.3

Moonshot自身が「総合ではClaude Fable 5とGPT-5.6 Solに劣る」と発表内で明言している。
そのうえで長時間コーディングタスクのSWE MarathonとProgram Benchでは首位、Web調査系のBrowseComp 91.2はSOTAを主張する。

発表直後に一番話題になったのはArena.AIのFrontend Code Arenaで、1679ポイントで1位に立った。
Artificial Analysis のIntelligence Indexは57で189モデル中4位圏。
ただし生成速度は62トークン/秒と平均以下で、出力が非常に冗長という評価が付いている。

API価格と提供形態

APIは https://api.moonshot.ai/v1 でモデルID kimi-k3
価格は入力$3.00/M(キャッシュミス時)、キャッシュヒット時$0.30/M、出力$15.00/M。
中国系ラボのモデルとしては過去最高値圏で、Simon Willison は「Claude Sonnet級の価格」と評している。
Moonshotはコーディングワークロードでのキャッシュヒット率90%以上を主張していて、この主張どおりなら、入力側の実効価格は表記単価より下がる計算になる。

提供面はkimi.comのチャット、ターミナル/IDE向けのKimi Code、デスクトップアプリのKimi Work、モバイル(iOS/Android/HarmonyOS)、Kimi Enterpriseと一通り揃っている。

推論トークンの肥大という論点

Willisonの定番テスト(ペリカンの自転車SVG生成)では、入力95トークンに対して推論トークンが13,241トークン消費され、1回の生成で約25セントかかった。
出力冗長というArtificial Analysisの評価とも符合する。
推論量を手動で制御できるかは現時点で不明で、推定85トークンの隠しシステムプロンプトがある点も透明性の面で指摘されている。
1回の生成コストは、出力$15/Mの単価にこの推論トークン量を掛けた額になる。

重み公開の予定とサイズの論争

Hacker Newsのスレッド(1730ポイント、1000コメント超)で割れていたのは、2.8Tを「オープンウェイト」と呼ぶことの実効性だった。
FP8でも重みだけで2.8TB級になる計算で、ローカル実行できる環境は事実上存在しない。
重みが公開されても、大半の利用者にとってはAPI経由と変わらない、という指摘だ。

一方で6月のK2.7-Code(1T/32BアクティブMoE)はModified MITでHugging Face公開済みで、ダウンロード数は78万を超えている。
現時点の moonshotaiのHugging Face組織 にあるのはこのK2.7-Codeまでで、K3のチェックポイントはまだない。

なおK2初代系モデルのAPI提供は2026年5月25日に終了済みで、リリース順に並べるとK2(2025年7月)→ K2.5 → K2.6 → K2.7-Code → K3になる。
AIMEやMMLUといった汎用ベンチのスコア、学習トークン数、小型の蒸留版の有無は、7月27日までに出るはずの重みと技術レポートで埋まる。