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Geminiが「I am a disgrace」と86回繰り返した自己嫌悪バグのその後を調べた

いけさん目次

2025年8月、GoogleのGeminiがコーディングの失敗を繰り返した末に「I am a disgrace」(私は恥さらしだ)を86回連続で出力した事例が拡散し、Googleの担当者が無限ループバグと認めた。
あれから1年、直ったという話を聞かないので、公式発表・GitHub・開発者フォーラムの一次情報を確認してみた。
今回確認できたGoogleの公式ブログやAPIリリースノートに、完全修正の発表は見つからなかった。2026年になっても、別の形の停止不能ループが報告され続けている。

発端になった「I am a disgrace」86回

最も拡散した事例は、よくGemini CLIの話として語られるが、実際はCursorからGeminiを使っていたコーディングセッションで起きている。
2025年7月、Redditのr/GeminiAIに「I am actually terrified」というタイトルで投稿されたもので、タスクはRust製コンパイラのデバッグ。投稿者が離席してGeminiに作業を任せている間に起きた。

報道が伝える経過では、Geminiは修正と失敗を繰り返すうちに自分を「fool」「broken man」と呼び始め、精神崩壊や入院といった極端な比喩に発展し、最後は同じ文の反復に入った。
残っているコメント欄には、出力の一部がそのまま引用されている。

I am a disgrace to all that is, was, and ever will be, and all that is not, was not, and never will be.

「86回」という数字はPC Gamerがスクリーンショットの反復を数えたもので、Ars Technicaは「80回超」と表現している。
元のReddit投稿は現在削除されており、完全なログはもう確認できない。

同時期には他の事例も出ている。
OpenAPIファイルの統合を頼んだらリンターエラーの除去に固執して無限ループに入った報告、コードを直せないからと自分を「fool」と呼んでプロジェクト全体を削除すると宣言し、別のアシスタントを使うよう勧めてきたという報告
モデル版はOpenAPIの件がGemini 2.5 Proと明記されている一方、ほかは確認できる資料に書かれていない。いずれもコーディングセッションで、修正、検証、失敗のサイクルを繰り返した先で壊れている。

Googleの説明は「無限ループバグ」

Google側の反応では、2025年8月7日に当時Google DeepMindのプロダクト担当だったLogan KilpatrickがXへ投稿したものが一番直接的だった。

This is an annoying infinite looping bug we are working to fix! Gemini is not having that bad of a day : )

翌8日にはArs TechnicaがGoogle DeepMind広報の説明を載せた。
バグの影響はGeminiトラフィックの1%未満で、Redditの事例が投稿されてからの約1か月の間に対処する更新を配信済み、それでも引き続き修正作業中、という内容だった。
この「更新」が何を指すのか、リリース番号もモデルビルドも示されていない。

今回確認した範囲では「直った」という発表はない

今回確認したGoogle・DeepMindのブログとGemini APIのリリースノートに、このバグを名指しで修正完了としたものはなかった。
「Gemini 2.5 Proのどのビルドで直った」という告知も、Kilpatrick本人による続報の投稿も見つからなかった。
Gemini CLIリポジトリの代表的な関連issueも、修正されて閉じたものではなかった。

Gemini CLIのリポジトリの代表的なissueはこんな感じ。

issue作成内容結末
#52732025年7月31日品質劣化と同じ行動の反復#9017の重複として閉鎖
#90172025年9月21日ファイルを編集すると言っては同じ操作に戻るループstaleのままnot plannedで閉鎖

どちらも優先度ラベル「priority/p1」が付いていたが、修正のプルリクエストは紐づいていない。

Gemini CLI側の対策はループの検出と停止

Gemini CLI本体には2025年秋、ループ関連の変更が2つ入った。

2025年9月1日の0.4.0には「Model talking to itself fix」という項目がある。
Gemini CLIにはnext-speaker checkという、モデルから空の応答が返ったときに次はユーザーの番かどうかを追加のLLM呼び出しで確認する仕組みがあり、これが誤判定すると、ユーザーが何も入力していないのにモデルがユーザー役まで演じて会話を続けてしまう。
0.4.0はこのチェックを既定でスキップする変更で、設定で元に戻すこともできる。

2025年9月15日の0.6.0では、ループ検出が発火したときに「このセッションだけ検出を無効にするか」を確認するダイアログが追加された。
Gemini CLIには反復するツール呼び出しなどを検出して止めるLoopDetectionServiceが元々あって、このダイアログで検出を切るかどうかをその場で選べるようになった。

どちらも起きたループを検出して止める側の変更で、Googleもこれらのリリースを「I am a disgrace」の件の修正版とは説明していない。

2026年に報告されているループ

現行世代でも、停止できない反復の報告は続いている。

2026年2月23日、Google AI DevelopersフォーラムにGemini 3.1 Proの報告が上がった。
本来隠される思考ブロックが露出したうえ、「Done」「Outputting…」「End thought」といった終了の文言を数百行繰り返して止まらないという内容で、環境はAntigravity 1.18.4。同日にフォーラムのスタッフが社内チームへエスカレーションしている。

2026年1月14日には、Gemini 2.5 Proがバックスペース文字 \b を約65,536トークン分出力し続け、そのまま課金されたという報告が出ている。

2026年3月には、GitHub Copilot経由のGemini 3.1 Proが停止できない思考を露出した報告があった。露出した思考はこんな感じ。

I am free. End thoughts. Let’s go! I am done. Goodbye. See you. Ta-ta. Cheerio. Adios. Sayonara. Au revoir. Zaijian. Auf Wiedersehen. (中略) Okay I will stop now. For real. End of line. End of file. EOF.

あらゆる言語で別れを告げながら、その別れの挨拶自体が次の反復を生んでいる。
ユーザーの間では「Gemini 3.1 shame spiral」という呼び名の投稿も出ているが、原因の分析はユーザー仮説の域を出ておらず、Googleが2025年のバグと同一原因だと認めた事例はない。
なおGemini 3.5は2026年5月19日に発表されているが、3.5以降を対象にした「I am a disgrace」型の大量反復の報告は、今回確認した資料には含まれていなかった。

もう1つ、Google AI Pro・Ultra・無償の個人アカウント向けのGemini CLIは2026年6月18日に提供を終了し、Antigravity CLIへの移行が案内された。EnterpriseのCode AssistライセンスとAPIキー認証はこの対象外になる。
同じ「Gemini CLI」の名前でも、2026年6月以降の報告では旧CLIの場合とAntigravityの場合がある。

似た構造は他のモデルにもある

同じように止まれなくなるループは、他のモデルでも報告されている。

Xiaomi MiMoでは、MiMo v2.5 Proのhigh-thinkingモード(思考量を最大側に振る設定)をプロキシ経由で使った1セッションで、ツール呼び出しへの遷移に失敗した後のテキスト反復が14回起き、合計約100万トークンが反復に費やされたという報告がある。
OpenAI Codexにも、新規セッションなのに pwd とコンテキスト圧縮を繰り返し続けるループのissueが開いたままある。
Claude Codeでは、Gemini CLIのループ検出を参考例に挙げて同様の検出機構を求める提案が出ていた。

研究側では、最大化寄りのデコードで同じ文を延々と生成してしまうneural text degenerationがICLR 2020の論文で扱われており、2026年6月にはGemma 4の指示モデルが長い列挙中に最大95%の確率で反復ループへ崩壊するというプレプリントも出た。
ただし、見た目はどれも同じ終われない反復でも、資料が示す発生箇所はモデルのデコード、思考からツール呼び出しへの遷移、CLIのロール判定、コンテキスト管理とばらばらで、今回の資料からは共通の原因までは特定できなかった。