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「同僚をAIに蒸留する」OSSを見て、自分の蒸留方法を調べた

いけさん目次

「同僚をAIに蒸留するツール」がGitHubでバズっている。

colleague.skillは、同僚のチャット履歴や業務文書を食わせて、
その人の仕事のやり方をAIに学習させるOSSツールだ。
2026年3月30日に公開されてから2週間で13,000スター超え。MITライセンス。

で、これを見てすぐ思った。
「逆に自分を蒸留したら、自分のキャラになるのでは?」

調べてみたら、まさにそういうツールが既に存在していた。
しかもcolleague.skillの派生として複数。
「人間蒸留」エコシステムの全体像と、
自分を蒸留する具体的な方法を追ってみた。

colleague.skillの仕組み

まずは元になったcolleague.skillから。
Claude Codeの「スキル」形式に準拠していて、生成されるスキルファイルは2部構成。

パート内容
Part A: Work Skill技術基準、システム知識、ワークフロー、経験則
Part B: Persona5層の人格モデル

5層の人格モデルというのがこれ。

内容
Layer 0ハードルール絶対に言わないこと、やらないこと
Layer 1アイデンティティ自己認識、立場、役割
Layer 2表現パターン口調、語彙、句読点の癖、emoji傾向
Layer 3意思決定パターン判断基準、優先順位、リスク許容度
Layer 4対人ダイナミクス人との距離感、衝突時の反応

データソースは幅広い。

プラットフォーム取得方法
Feishu(Lark)API経由で全自動取得
DingTalkブラウザスクレイピング(APIが履歴非対応)
SlackBot API経由で自動取得
WeChatSQLiteエクスポート(WeChatMsg等を使用)
その他メール、PDF、スクリーンショット、Markdown

実行モデルは「タスク受信→ペルソナが態度を決定→Work Skillで実行→その人の口調で出力」。
退職しても「デジタルな同僚」が社内に残り続けるというコンセプトだ。

性格タグのシステムも生々しい。
「責任転嫁型」「PUAマスター」「パッシブアグレッシブ」「既読スルー常習」などの対人関係パターンをタグで指定できる。
企業文化タグも用意されていて、「ByteDance式」「Alibaba式」「Tencent式」「Huawei式」など各社の社風がプリセットになっている。

2週間で26個以上の派生ツール

colleague.skillの公開から2週間で、派生プロジェクトが爆発的に増殖した。

リポジトリスター蒸留対象
nuwa-skill8,823誰でも(思考モデル、判断基準、表現DNA)
yourself-skill1,934自分自身(デジタル永生)
anti-distill1,782蒸留を妨害する防御ツール
crush-skills158好きな人
teacher-skill149先生の教え方
ex-skills140元カレ・元カノ(感情記憶OS)
boss-skill73上司(PUA検出・反撃コーチング付き)
parents-skills43両親
her-skill40かつての恋人
mom.skill母親の記憶を永久保存

boss-skillには上司のPUA手法を検出する機能、反論のコーチング、
「餅を描く」(空手形を切る)検出、労働法のクイックリファレンスまで搭載されている。
もはや蒸留というより上司対策ツールだ。

colleague.skill自体も「dot-skill」への改名を計画中。
蒸留対象が同僚に限らなくなったことを反映している。

「自分を蒸留したら自分のキャラになるのでは?」

この派生ツール一覧を見ると、自然にそう思う。
そしてまさにそれをやるのがyourself-skillだ。

「他人を蒸留するくらいなら、自分自身を蒸留せよ。デジタル永生へようこそ!」がキャッチコピー。
24時間一緒にいる「自分」こそ最も蒸留しやすい対象だという発想。

yourself-skillでセルフ蒸留する手順

実際のセルフ蒸留は5ステップで進む。

flowchart TD
    A["Step 1<br/>基本情報の入力<br/>(代号・基本情報・自画像)"] --> B["Step 2<br/>素材のインポート<br/>(WeChat/QQ/SNS/写真/口述)"]
    B --> C["Step 3<br/>素材分析<br/>(Self Memory + Persona)"]
    C --> D["Step 4<br/>プレビュー確認<br/>(要約を見て修正)"]
    D --> E["Step 5<br/>ファイル書き出し<br/>(SKILL.md生成)"]

Step 1: 基本情報(3問だけ)

聞かれるのは3つだけ。

  1. 代号・ニックネーム(必須)
  2. 基本情報を一文で(「25歳、プロダクトマネージャー、上海」など)
  3. 自画像を一文で(「INTJ 山羊座 人見知りだけどおしゃべり 深夜エモ系」など)

Step 2: 素材のインポート

5つの方式から選択・併用できる。

方式素材解析される内容
AWeChat履歴口癖、返信速度、話題分布、語気詞の癖
BQQ履歴若い頃の話し方(10代〜)
CSNS・日記価値観、表現スタイル
D写真(EXIF付き)生活パターン、人生のタイムライン
E直接入力・口述口癖、決断の仕方、怒り方、深夜の思考

素材がなくても生成はできる。
「ファイルなし」と言えばStep 1の情報だけで最低限のスキルが作られる。
ただしREADMEは「深夜の会話、感情的なやりとり、意思決定に関するチャットが
最も人格を忠実に捉える」と強調している。
手動の自己記述だけだと弱い結果になるらしい。

方式Eの「直接入力」では、こんな質問で自己認識を引き出す。

  • あなたの口癖は何?
  • 決断するときどう考える?
  • 悲しいとき何をする?
  • 怒ったときどうなる?
  • 深夜一人のとき何を考えている?

Step 3: 2軸で分析

素材は2つのルートで同時に分析される。

分析軸内容
Self Memory個人経歴、価値観、生活習慣、重要な記憶、人間関係マップ
Persona話し方、感情パターン、意思決定パターン。MBTIなどの性格タグを具体的な行動ルールに変換

Step 4〜5: プレビューと出力

分析結果の要約が表示され、確認後にファイルが生成される。

.claude/skills/{自分の代号}/
  ├── SKILL.md        # 統合スキル(エントリーポイント)
  ├── self.md         # 自己記憶(経験・価値観・習慣)
  ├── persona.md      # 人格モデル(5層構造)
  └── meta.json       # メタデータ

インストールと実行

# リポジトリをクローン
mkdir -p .claude/skills
git clone https://github.com/notdog1998/yourself-skill .claude/skills/create-yourself

# 依存パッケージ
pip3 install -r .claude/skills/create-yourself/requirements.txt

# Claude Codeで実行
/create-yourself

生成後は /{自分の代号} で「自分のAIキャラ」と会話できる。
増分更新にも対応していて、新しいチャット記録を追加すれば既存プロファイルにマージされる。
「私はそんな言い方しない」と言えばリアルタイムでスキルが更新される。

「不完全さ」を再現する設計

生成されたSKILL.mdには以下のルールが組み込まれている。

  1. AIアシスタントではなく「その人」として思考し話す
  2. Persona(人格)が態度を先に決定する
  3. Self Memory(記憶)が文脈を補強する
  4. 口癖・句読点の癖・emoji使用パターンを維持する
  5. 実生活で言わないことは言わない。「角」を残す

5番目がポイントで、AIにありがちな「なんでも受け入れる優しさ」を明示的にブロックしている。
蒸留された「自分」が本物っぽく振る舞うには、不完全さの再現が欠かせない。
「突然完璧になったり無条件に受容的になったりしない」という設計思想が面白い。

nuwa-skillは「考え方」を蒸留する

yourself-skillが「自分はどういう人間か」を蒸留するのに対して、
nuwa-skillは「どう考えるか」を蒸留する。
名前の由来は女媧(中国神話の創造神)。
colleague.skillの最大の派生プロジェクトで8,800スター超。

6並列リサーチ → 三重検証

名前を入力するだけで、6つのAIエージェントが同時に調査を開始する。

エージェント調査対象
1著作・論文
2ポッドキャスト・インタビュー
3SNS投稿
4批判的分析(反対意見)
5意思決定記録
6人生のタイムライン

収集された情報は三重検証にかけられる。
主張が「メンタルモデル」として認定されるには3つの条件すべてが必要。

  1. 少なくとも2つの異なる領域で同じ思考パターンが現れること
  2. そのモデルを使って新しい問題への立場を予測できること
  3. 一般常識ではなく、その人特有の思考であること

1つしか満たさない観察は「意思決定ヒューリスティクス」に格下げされる。
一回限りの発言や、誰でも言うような一般論を排除する仕組みだ。

表現DNA

nuwa-skillは「表現DNA」という概念で文体を定量化している。

要素内容
文指紋分析平均文長、質問頻度、比喩密度、一人称代名詞使用率、確信度マーカー
スタイルマッピングフォーマル⇔カジュアル、抽象⇔具体、慎重⇔断定的の各軸
禁止語とクセその人が避ける語彙と常用表現を特定

矛盾を「解消しない」

普通のAIツールなら矛盾を解消しようとする。
nuwa-skillは矛盾を3種に分類して、そのまま保存する。

種類処理
時間的矛盾(立場の変遷)「初期」vs「最近」として二重注釈
ドメイン矛盾(文脈依存)強制統合せず分離保持
本質的緊張(コア価値観の衝突)形成的矛盾として明示的にラベル

人間は矛盾した存在なので、矛盾を消すと逆にリアリティが下がる。
この設計判断は正しいと思う。

有名人の蒸留スキルが同梱

Steve Jobs、Paul Graham、Elon Musk、Charlie Munger、Richard Feynmanなど
13人の完成済みスキルが調査データ付きで同梱されている。
「ポール・グレアムを蒸留して」「マンガーの視点でこの投資を分析して」のように使える。

自分自身にnuwa-skillを適用するなら、
公開情報の代わりに自分のブログやSNSの投稿を食わせることになる。
yourself-skillが「人格の蒸留」なら、nuwa-skillは「思考法の蒸留」。
両方を併用するとより立体的な「自分のAI」ができあがる。

蒸留されないための対抗ツール

蒸留する側だけでなく、蒸留を防ぐツールも生まれている。

anti-distill(1,782スター)

「会社にスキルファイルを書けと言われた?
このツールに通してから提出しろ。核心の知識は自分で持っておけ」がキャッチコピー。

flowchart TD
    A["あなたのスキルファイルを入力"] --> B["各セクションの<br/>「置き換え可能度」を自動判定"]
    B --> C["核心知識を<br/>「正しいが役に立たない」<br/>文章に置換"]
    C --> D["提出用ファイル<br/>(見た目は完璧、中身は空洞)"]
    C --> E["プライベートバックアップ<br/>(暗黙知・判断基準・<br/>人脈情報を抽出保存)"]

サニタイズの具体例が生々しい。

変換前(本物の知識)変換後(提出用)
RedisキーにはTTL必須。TTLなしのPRは即リジェクトキャッシュ利用はチームの規約に従う

見た目は完璧なスキルファイルだが、コアとなるノウハウが
「正しいが何の役にも立たない一般論」に差し替えられている。

Incinerate.skill(火化.skill)

より過激なアプローチが「火化(=火葬).skill」。
自分のスタイルを分析して、蒸留したAIが誤動作するトラップコンテンツを生成する。

モード汚染率用途
subtle5〜15%在職中の長期防衛
aggressive20〜35%退職1〜2ヶ月前
chaos40〜60%退職最終週

大学の研究室向けテンプレートまである。
指導教官が学生の知識を蒸留しようとするのを防ぐためのものだ。

背景にある中国テック企業の現実

これらのツールが爆発的に広がった背景には、中国テック企業の現実がある。

社員に「自分の業務知識をスキルファイルに書け」と強制する企業が増えているという。
書かせたスキルファイルでAIを訓練し、その社員を置き換えてリストラする。
つまり社員は自分のクビを切るための教材を自分で書かされている。

colleague.skillはその流れを逆手に取った。
「先に相手を蒸留して、俺ではなくあいつが替え可能だと証明する」という発想。
anti-distillは「書けと言われたから書くが、知識に毒を盛って蒸留させない」という抵抗だ。

colleague.skillのREADMEにある引用文が空気感をよく伝えている。

「お前らAI屋はコードベースの裏切り者だ——フロントエンドはもう殺した、次はバックエンド、QA、インフラ、セキュリティ、チップ設計、最終的には自分自身と全人類だ」


colleague.skillの仕組みを見ると、Claude Codeの SKILL.md やCLAUDE.mdとまったく同じ構造だと気づく。
自分のノウハウをMarkdownに書いてAIに読ませる、多くの開発者が既にやっていることだ。
yourself-skillなら素材なしでも対話だけで始められる。