技術約8分で読めます

PHPのパッチ適用を呼びかけた高市総理は、PHP研究所からセキュリティ本を出していた

いけさん目次

2026年10月21日の夜、PHPの重大な脆弱性(php2shell)の修正版が出る1時間ほど前に、高市総理がXに投稿した。
PHPはWebサイトのサーバー側で広く使われているプログラミング言語で、php2shellは外部から任意のコードを実行されるおそれがある脆弱性2件の通称。
「今夜に対応して頂きたい大至急のお願い」として、公開される修正パッチを「可及的速やかに適用できる準備」をするよう求める内容だった。
すぐ当てられない場合は「例えばウェブサイト等を一時的に停止させることも、リスクを低減させるための有効策の一つ」とも書いている(ITmedia NEWS)。

総理が個別のソフトウェアの脆弱性についてXで直接呼びかけるのは異例と報じられた。
その総理が、2018年にPHP研究所からサイバーセキュリティの本を出している。

総理は自分のホームページも止めた

投稿は21日の午後10時前で、修正版は予定どおり午後11時ごろに公開された。
同じ夜、内閣官房の国家サイバー統括室も同じ内容をXで呼びかけている。

総理は自分のホームページも21日夜から止めた(日本経済新聞)。
翌22日、官邸で記者団に「うちは遮断した」と話し、各社のサイトは大丈夫かと聞き返している。
自民党の小林鷹之政調会長もXに「HPを即刻止めた」と投稿し、片山さつき財務相のホームページも開けなくなっていた(時事ドットコム)。

PHP研究所から出ていた本

本は『サイバー攻撃から暮らしを守れ!』で、副題は「サイバーセキュリティの産業化」で日本は成長する。

項目内容
著者高市早苗 著、藤井龍二 作画
発売日2018年12月14日
判型・価格A5判並製、税込1,760円
ISBN978-4-569-84035-2
扱う分野医療、交通、金融、スマホなど身近な分野へのサイバー攻撃の実態と対策。70ページ分のマンガと用語解説つき

PHP研究所の内容紹介では、サイバー攻撃への対策は負担ではなく投資と考えるべきで、対策を強化した製品やサービスが国内外で優位に立てると主張している。

PHP研究所とプログラミング言語のPHPは、名前が同じなだけで関係はない。

PHP研究所プログラミング言語のPHP
始まり1946年、松下幸之助が創設1995年の「Personal Home Page Tools」が始まり
名前の意味Peace and Happiness through Prosperity(繁栄によって平和と幸福を)の頭文字今は PHP: Hypertext Preprocessor の略。頭のPがPHP自身を指す再帰的な略語

PHP研究所のほうが50年ほど早い(ITmedia NEWS)。

高市氏が本部長としてまとめた2018年の党の提言

高市氏は2017年11月、自民党に新設されたサイバーセキュリティ対策本部の本部長になった。
この本部は党則79条に基づく総裁直轄の機関で、2017年12月5日から12回の会議を重ね、2018年4月24日に「第1次提言」をまとめている。
提言は政策の方向性をまとめて政府に求める文書で、法律そのものではない。
提言書の巻頭の文章には「自由民主党サイバーセキュリティ対策本部長 高市早苗」と署名がある(自民党、提言PDF)。

副題は「リスクの最小化に向けて。『コスト』から『投資』への意識変革を」。
大項目の一つが「『サイバーセキュリティ』の産業化」で、対策を強化した製品やサービスが国内外の市場で優位に立てる、という本の内容紹介と同じ主張も書かれている。
その8か月後に、この言葉を副題にした本が出た。

提言は、政府が定める重要インフラ13分野(航空、鉄道、物流、医療、電力、ガス、水道、石油、化学、金融、クレジット、情報通信、政府・行政サービス)に、自動運転、安全保障、量子コンピュータを加えて議題にした。
このうち自動運転と安全保障は、13分野とは別に独立した章がある。
実際に起きた攻撃や事故(インシデント)の事例、対策の現状、残る課題を分野別に同じ書式で整理した形式は、提言書によると「政府与党内では初めて」。
各省庁や有識者へのヒアリングは、攻撃者にヒントを与えかねない情報を含むため、出席者を国会議員本人に限って非公開で行った。

全分野共通の提言には、エンジニアに関係しそうな項目も多い。

提言の項目内容
サイバー反撃権・サイバー自衛権根拠となる法律を検討する
IoT機器へのセキュリティ対策の義務付け重要インフラの業法や、安全に関わるIoT機器の法令で対策を義務付ける。設計段階から対策を組み込むセキュリティバイデザインも求める
脆弱性の調査と情報共有脆弱性を調べて共有する行為が、不正アクセス禁止法や刑法のウイルス保管罪などに問われかねない。法律でどう手当てするかを検討する
人材「脆弱性診断士」(仮称)の検討、政府や重要インフラの演習でのホワイトハッカー(攻撃の技術を防御に使う技術者)の活用、セキュリティ技術者の処遇改善
クラウドの認証制度米国政府のクラウド認証制度FedRAMPなどを参考にした日本版の制度を検討する
国会議員のセキュリティ議員立法で議員の情報セキュリティを確立する。党でも安全保障に詳しい議員のパソコンなどを一元管理する
予算平成30年度の当初予算621億円に対し、各府省の予算要求に「サイバーセキュリティ対策特別枠」を設ける

提言から能動的サイバー防御の法律まで

2019年5月には、関連する施策をまとめて担当する「サイバーセキュリティ庁」の新設を求める提言が出た。2025年の創設を目指すものだった(日本経済新聞)。
高市氏はのちにXで、この提言書に能動的サイバー防御の法整備も入れていたと振り返っている(高市早苗氏のX投稿)。

私が自民党サイバーセキュリティ対策本部長として、「アクティブ・サイバー・ディフェンス(能動的サイバー防御)を可能にする法整備」や、「一元的な権限と責任を担うサイバーセキュリティ庁の設置」を、提言書に纏めて官邸にお届けしたのは、平成31年でした。

能動的サイバー防御は、攻撃に使われるサーバーに事前に対処できるようにする仕組みで、政府が法律に基づいて通信情報を使い、攻撃サーバーなどを検知する。
確認できたサーバーには、必要に応じて警察や自衛隊がアクセスして無害化する。
無害化には独立機関の事前承認などの手続きが要る(内閣官房国家サイバー統括室の説明資料)。

これを定めたサイバー対処能力強化法と関連の整備法は、2025年2月7日に閣議決定され、5月16日に成立した。
2025年7月1日には、今回のPHPの件で注意を呼びかけた国家サイバー統括室が内閣官房にでき、上の投稿はその日のもの。
同じ投稿で、2025年の通常国会で法律が整い、「新たなサイバー対策の司令塔」ができたことを「感無量」と書いている。
ただ、できたのは提言にあった「サイバーセキュリティ庁」ではなく、内閣官房の中の組織だった。

高市内閣のAIとデジタル大臣

AIについては、総理はチームみらいの安野貴博党首から教わっている。
2026年5月の党首討論で、安野氏が「必要があれば家庭教師に行く」と申し出て、総理は「ぜひお願いいたします」と答えた。
8月28日には官邸で、安野氏の助言を受けながら、物価高対策の効果の試算をAIに指示するデモに取り組み、「首相秘書官が2人くらい必要なくなったかも」と冗談交じりに話している(日本経済新聞)。

デジタル大臣は、2代続けて医師だ。

松本尚古川俊治
在任2025年10月〜2026年9月2026年9月17日〜
経歴救急医。日本医科大学教授で、ドクターヘリの第一人者外科医で弁護士。参院4期
本人の説明「医師でもある私に課せられた任務は、特に、医療のDX化の推進」総理から「今までのバックグラウンドを生かして、この分野が一番重要だからやりなさい」と言われた。起用の理由を「閣僚の中で理系の方は極めて少ない」と説明

松本氏は2026年9月に退任して総理補佐官になったとき、「エンジニアであるかどうか、デジタルに詳しいかどうかは関係がないと証明できた」と話している(チバテレ)。
後任の古川氏はデジタルに加えて、AI戦略、科学技術、サイバー安全保障なども担当する(m3.com、ITmedia NEWS、m3.com)。

松本氏は医療分野のデジタル化(医療DX)を自分の任務とし、古川氏は理系の閣僚が少ないことを起用の理由に挙げている。
総理自身が「医師だから選んだ」と説明した報道は見当たらない。

総理はITに詳しいのか

高市総理については、自分でパソコンを組んだとか、サイトを作ったといった話は見つからなかった。
AIも、安野氏に教わっていることを公の場で明かしている。
開発や実装に携わった話は出てこないが、サイバーセキュリティの政策には2017年の本部長就任から9年近く関わっている。

総理とITの話では、2000年ごろの森喜朗元首相の「イット革命」もある。
IT革命を「イット」と読んだとされる話で、2012年の引退時に週刊ポストの発言録にも載った(NEWSポストセブン)。
ただ、その記事にもいつ、どこで、誰に向けた発言かは書かれていなくて、一次資料は見つからなかった。